某所にて島なおみさんが企画した題詠企画「からだから短歌」に参加しました。身体の百のパーツを詠み込むという、なかなかハードルの高い企画でした。面白かったので記録としてこちらに再掲します。島さんどうもありがとう。
†
1 つむじ
まひるまの砂に転べばつむじからほどけてやがて海へなだれる
2 頭
春の夜の薄墨色のうわごとの防空頭巾、ぼうくうずきん
3 脳
しんしんと脳はめぐりて真夜深くふかくグラスの水すきとおる
4 脊
きみだけは裏切らないね 脊柱をのぼる迅さでひらく蔓薔薇
5 髄
窓に置く椿一輪散り落ちて猪木の延髄斬りを見逃す
6 髪
鋏からこぼれる髪が雨を呼びふたり戻れぬ午後のあかるみ
7 毛
両の手にささげてあゆむ春の野の栗毛の頸にもえるひかりを
8 額
額からこぼれる花を手に受けて永遠に俯いたいもうと
9 皮膚
うすい皮膚傷つけながら確かめる軽さ(声なき桜前線)
10 膜
微笑めば指に搦まる膜となる死ねばいいあなたの自意識も
11 臓(器)
てのひらにあそばせている臓器たち羽ばたきやまぬ野に放ちやれば
12 神経
黒鍵の谷間のひかりふるわせる神経質なうなじのあたり
13 指紋
来たことを告げる代わりに残された指紋がひとつ、蓮の葉裏に
14 顔
長椅子に見知らぬ顔を待たせつつ夜の医局に冷える唇
15 頬
鈍行の窓の冬陽に片頬を預けて訃報なんども読んだ
16 骨
ちりちりと砕けて骨は燃え残り運ばれてあかるさの向こうへ
17 肉
肉屋の奥に肉吊されて街路樹の深まる影にきみを忘れる
18 眉
革命の叫びは遠く病室の午睡の眉に花降りやまぬ
19 睫毛
昏睡の瞼を飾るさみしさを抱いて睫毛のゆるき曲線
20 感覚
日当りのいい一角に飼育され植物感覚でそばにいた
21 耳
耳を削いだ画家の記憶を喚びながら真夏、乾いた道の続きを
22 目(眼)
祖母死して春のひかりが干からびた潤目鰯の眼窩をくぐる
23 瞳
瞠いたまま死んでいる野良猫の瞳、向日葵、漁業組合
24 涙
全米が泣いた映画を涙なく見終えて春の街路を歩く
25 まぶた
春の日はぶたぶたまぶた真夜中の刺客としてファンシーな替え歌
26 鼻
あたたかく湿った鼻が嗅ぎ分ける夕闇 膝をのばしてすわる
27 ほくろ
ほくろしか思い出せないあの夏に絡めた脚のかたちのほかは
28 髭
髪と髭との境界線を決めながら兵士の傷を思う 朝焼け
29 唇
唇は裂傷めいて年の瀬の街宣車よりほとばしる声
30 口
膿みはじめた口内炎を気にしつつコートに腕を通す一月
31 歯
癖のある歯型の残るトーストを(やがてあなたを)しみじみ愛す
32 舌
錠剤があなたの舌で輪郭を失う朝の百合を見ている
33 唾液
唾液口移ししながら明日買う靴のこととか考えて 月
34 顎
顎つよき少女ら春をさざめいて通学バスにきらめく画鋲
35 関節
関節をゆるめてきみを抱く夜の風はゴルゴダから吹いてくる
36 うなじ
今朝もきみのうなじをゆるく二周して緋のマフラーが陽射しをよぎる
37 首
絡まった放置自転車駅裏になだれて冬の日の絞首刑
38 呼吸
不器用な呼吸のように鳩時計持ち堪えつつ正午を告げる
39 喉
喉を下る水の硬さを計りつつ文字の乱れた手紙を読んだ
40 管
その朝に親しき指を失って金管楽器の静かなる渦
41 肺
熱に膿む肺をひらいて夜の飛花呼ぶ 滅びゆくものの名前で
42 肩
草の上に押し倒されて肩越しに見た青空の昏さ きずあと
43 腋(脇)
腋に挿す体温計の水銀のひかりのようにあなたを思う
44 運動
運動と睡眠を不足させているからだ五月の朝を揺られる
45 筋
朝のカフェに語らいあえば筋道を逸れたあたりでさかなが跳ねる
46 腕(手)
紫陽花に降る雨を聴く 腕に刺す針にあつまるひかりのなかを
47 肘
ひるがおの花弁を裂いて肘と肘ふれあうほどに海辺を歩く
48 掌
読み終えたのちのひだまり掌編の手書きの文字の青を燻らす
49 指
くりかえし教わる運指 教室に欅の気配満ちるさなかを
50 上半身
ひとがたの上半身を授かりしかなしみを駆けよケンタウルスよ
51 胴
ペンネ・リガーテ寸胴鍋に泳がせて明日告げるべき言葉をさがす
52 心臓
心臓を動かす装置ごと沈む夕闇にきみとゆびを絡めた
53 肋
標本の肋くぐれば鯨、鯨、桜色に色づいて滅んで
54 循環
魚群れる大水槽はあかるくて循環という終わりなき闇
55 血
くちばしに血を滲ませて死んでいた海鳥のこと、三月のこと
56 胸
胸に抱く頭蓋 はるかな空のこと言う人がいてさやぐ茅の葉
57 消化
てのひらに滲む鮮血未消化の断片として記憶顕つたび
58 食道
喉を過ぎやがて食道を下るときかすかな痛み走る 肉体
59 胃
うまく文字を拾いきれずに胃薬を切らした夜の岩波文庫
60 腸
吊るされて並ぶ腸詰 打ち寄せる恋のはじめをもう逃げられず
61 肝
寄る辺なき夜にしあれば群肝の心の凪に漕ぎ出す舟
62 胆
石畳踏み嫁ぎゆくいもうとが数える銀杏、海胆、ラ・フランス
63 膵島(ランゲルハンス島)
真夏ひどく乾いた感じで手をのばすあなたのランゲルハンス島へと
64 乳
巨人巨峰巨乳大臣巨根巨匠巨巨巨巨車内吊りのさえずり
65 腹
風琴の蛇腹破れてなんかもうどうでもいい、辛夷咲く日暮れは
66 へそ
へそとへそでつながったことのないひとを母と呼ぶあなたの腕枕
67 背
馬の背を雲は流れてゆるやかに離れていったこころを思う
68 腰
足踏みのミシンのそばに腰掛けて四月あなたは笑いつづけた
69 羽
傾いて九月、出窓に横たわる揚羽のことをきみには告げず
70 子宮
子宮なる空洞ひとつ吊革に揺られて朝の環状線を
71 肛門
つぶらなる肛門を見よ得意気に尻尾を上げて行く愛犬の
72 陰茎
模範的陰茎を各自ぶらさげて軍隊は勇ましく歩めり
73 陰核
降誕祭準備の仕上げ粛々といま樅の木に飾る陰核
74 膣
上等の膣を御用意しております、足元気をつけてお通り下さい
75 生殖
きみの部屋で踏んでしまった生殖器(部分)レプリカ(実用的な)
76 精巣
てのひらに掬う精巣実りなく消える軌跡も愛などと呼べ
77 卵巣
灰色の毛皮を脱いであどけない春の卵巣に与えるつばさ
78 腎(臓)
曾祖父の昔語りは肝腎な場面でいつも途切れてしまう
79 尿
複雑に歪む山麓六月のサナトリウムに尿瓶立つとき
80 汗
もの言わず汗もかかない恋人のひらきっぱなしの目を見つつする
81 爪
眠りつづけるあなたの爪を切りながら途切れぬように息をしていた
82 尻
目尻やや上げて描きつつ擦り切れるほどにふたりでいた日を思う
83 股
大股に近づく気配 春という息苦しさに水をふくめば
84 腿
太腿をかがやくように波打たせ駆けてくるあの夏のあなたが
85 脚(足)
遅く起きた朝のフロアにゆっくりとひらく脚から夏を呼び込む
86 膝
水に魚およがすように両膝をゆるめて闇にあなたを放す
87 脛
駆けだせば脛を打つ草もうひどくゆるせなかったことはわすれて
88 踵
いつもとは違う角度で見あげてる踵の薄い靴を選んで
89 鱗
擦れあう鱗痛くて、わたしたち、するときいつも息を殺した
90 尾
不意打ちで親しいひとの尾をつかむ遊びのあとはいつもさみしい
91 静脈
静脈と静脈触れて風のなか狂わずにいる春の日がある
92 動脈
踏みわける草、廃タイヤ、眩しくて頸動脈のふるえをさがす
93 蛋白
蛋白質気味のからだを避けながら列車の揺れに逆らう朝は
94 腺
腺病質な子供のように相似形並べ互いをゆるしあう日は
95 垢
それさえも手垢まみれであなたって人に心底萎える月曜
96 液
液という液ざわめいて春の夜のからだ恋するからだとなりぬ
97 脂
オキシフル吸わせた脱脂綿なども、グラウンドから聞こえる声も
98 腱
しばし春の逃避行にて六畳に腱鞘炎の鼠と暮らす
99 分泌
もはや愛など分泌せずにいてほしく、つつがなく玉葱を刻む刃
100 体
離れずに体位変えれば魚めいた記憶の果てにふるえるひかり
†
1 つむじ
まひるまの砂に転べばつむじからほどけてやがて海へなだれる
2 頭
春の夜の薄墨色のうわごとの防空頭巾、ぼうくうずきん
3 脳
しんしんと脳はめぐりて真夜深くふかくグラスの水すきとおる
4 脊
きみだけは裏切らないね 脊柱をのぼる迅さでひらく蔓薔薇
5 髄
窓に置く椿一輪散り落ちて猪木の延髄斬りを見逃す
6 髪
鋏からこぼれる髪が雨を呼びふたり戻れぬ午後のあかるみ
7 毛
両の手にささげてあゆむ春の野の栗毛の頸にもえるひかりを
8 額
額からこぼれる花を手に受けて永遠に俯いたいもうと
9 皮膚
うすい皮膚傷つけながら確かめる軽さ(声なき桜前線)
10 膜
微笑めば指に搦まる膜となる死ねばいいあなたの自意識も
11 臓(器)
てのひらにあそばせている臓器たち羽ばたきやまぬ野に放ちやれば
12 神経
黒鍵の谷間のひかりふるわせる神経質なうなじのあたり
13 指紋
来たことを告げる代わりに残された指紋がひとつ、蓮の葉裏に
14 顔
長椅子に見知らぬ顔を待たせつつ夜の医局に冷える唇
15 頬
鈍行の窓の冬陽に片頬を預けて訃報なんども読んだ
16 骨
ちりちりと砕けて骨は燃え残り運ばれてあかるさの向こうへ
17 肉
肉屋の奥に肉吊されて街路樹の深まる影にきみを忘れる
18 眉
革命の叫びは遠く病室の午睡の眉に花降りやまぬ
19 睫毛
昏睡の瞼を飾るさみしさを抱いて睫毛のゆるき曲線
20 感覚
日当りのいい一角に飼育され植物感覚でそばにいた
21 耳
耳を削いだ画家の記憶を喚びながら真夏、乾いた道の続きを
22 目(眼)
祖母死して春のひかりが干からびた潤目鰯の眼窩をくぐる
23 瞳
瞠いたまま死んでいる野良猫の瞳、向日葵、漁業組合
24 涙
全米が泣いた映画を涙なく見終えて春の街路を歩く
25 まぶた
春の日はぶたぶたまぶた真夜中の刺客としてファンシーな替え歌
26 鼻
あたたかく湿った鼻が嗅ぎ分ける夕闇 膝をのばしてすわる
27 ほくろ
ほくろしか思い出せないあの夏に絡めた脚のかたちのほかは
28 髭
髪と髭との境界線を決めながら兵士の傷を思う 朝焼け
29 唇
唇は裂傷めいて年の瀬の街宣車よりほとばしる声
30 口
膿みはじめた口内炎を気にしつつコートに腕を通す一月
31 歯
癖のある歯型の残るトーストを(やがてあなたを)しみじみ愛す
32 舌
錠剤があなたの舌で輪郭を失う朝の百合を見ている
33 唾液
唾液口移ししながら明日買う靴のこととか考えて 月
34 顎
顎つよき少女ら春をさざめいて通学バスにきらめく画鋲
35 関節
関節をゆるめてきみを抱く夜の風はゴルゴダから吹いてくる
36 うなじ
今朝もきみのうなじをゆるく二周して緋のマフラーが陽射しをよぎる
37 首
絡まった放置自転車駅裏になだれて冬の日の絞首刑
38 呼吸
不器用な呼吸のように鳩時計持ち堪えつつ正午を告げる
39 喉
喉を下る水の硬さを計りつつ文字の乱れた手紙を読んだ
40 管
その朝に親しき指を失って金管楽器の静かなる渦
41 肺
熱に膿む肺をひらいて夜の飛花呼ぶ 滅びゆくものの名前で
42 肩
草の上に押し倒されて肩越しに見た青空の昏さ きずあと
43 腋(脇)
腋に挿す体温計の水銀のひかりのようにあなたを思う
44 運動
運動と睡眠を不足させているからだ五月の朝を揺られる
45 筋
朝のカフェに語らいあえば筋道を逸れたあたりでさかなが跳ねる
46 腕(手)
紫陽花に降る雨を聴く 腕に刺す針にあつまるひかりのなかを
47 肘
ひるがおの花弁を裂いて肘と肘ふれあうほどに海辺を歩く
48 掌
読み終えたのちのひだまり掌編の手書きの文字の青を燻らす
49 指
くりかえし教わる運指 教室に欅の気配満ちるさなかを
50 上半身
ひとがたの上半身を授かりしかなしみを駆けよケンタウルスよ
51 胴
ペンネ・リガーテ寸胴鍋に泳がせて明日告げるべき言葉をさがす
52 心臓
心臓を動かす装置ごと沈む夕闇にきみとゆびを絡めた
53 肋
標本の肋くぐれば鯨、鯨、桜色に色づいて滅んで
54 循環
魚群れる大水槽はあかるくて循環という終わりなき闇
55 血
くちばしに血を滲ませて死んでいた海鳥のこと、三月のこと
56 胸
胸に抱く頭蓋 はるかな空のこと言う人がいてさやぐ茅の葉
57 消化
てのひらに滲む鮮血未消化の断片として記憶顕つたび
58 食道
喉を過ぎやがて食道を下るときかすかな痛み走る 肉体
59 胃
うまく文字を拾いきれずに胃薬を切らした夜の岩波文庫
60 腸
吊るされて並ぶ腸詰 打ち寄せる恋のはじめをもう逃げられず
61 肝
寄る辺なき夜にしあれば群肝の心の凪に漕ぎ出す舟
62 胆
石畳踏み嫁ぎゆくいもうとが数える銀杏、海胆、ラ・フランス
63 膵島(ランゲルハンス島)
真夏ひどく乾いた感じで手をのばすあなたのランゲルハンス島へと
64 乳
巨人巨峰巨乳大臣巨根巨匠巨巨巨巨車内吊りのさえずり
65 腹
風琴の蛇腹破れてなんかもうどうでもいい、辛夷咲く日暮れは
66 へそ
へそとへそでつながったことのないひとを母と呼ぶあなたの腕枕
67 背
馬の背を雲は流れてゆるやかに離れていったこころを思う
68 腰
足踏みのミシンのそばに腰掛けて四月あなたは笑いつづけた
69 羽
傾いて九月、出窓に横たわる揚羽のことをきみには告げず
70 子宮
子宮なる空洞ひとつ吊革に揺られて朝の環状線を
71 肛門
つぶらなる肛門を見よ得意気に尻尾を上げて行く愛犬の
72 陰茎
模範的陰茎を各自ぶらさげて軍隊は勇ましく歩めり
73 陰核
降誕祭準備の仕上げ粛々といま樅の木に飾る陰核
74 膣
上等の膣を御用意しております、足元気をつけてお通り下さい
75 生殖
きみの部屋で踏んでしまった生殖器(部分)レプリカ(実用的な)
76 精巣
てのひらに掬う精巣実りなく消える軌跡も愛などと呼べ
77 卵巣
灰色の毛皮を脱いであどけない春の卵巣に与えるつばさ
78 腎(臓)
曾祖父の昔語りは肝腎な場面でいつも途切れてしまう
79 尿
複雑に歪む山麓六月のサナトリウムに尿瓶立つとき
80 汗
もの言わず汗もかかない恋人のひらきっぱなしの目を見つつする
81 爪
眠りつづけるあなたの爪を切りながら途切れぬように息をしていた
82 尻
目尻やや上げて描きつつ擦り切れるほどにふたりでいた日を思う
83 股
大股に近づく気配 春という息苦しさに水をふくめば
84 腿
太腿をかがやくように波打たせ駆けてくるあの夏のあなたが
85 脚(足)
遅く起きた朝のフロアにゆっくりとひらく脚から夏を呼び込む
86 膝
水に魚およがすように両膝をゆるめて闇にあなたを放す
87 脛
駆けだせば脛を打つ草もうひどくゆるせなかったことはわすれて
88 踵
いつもとは違う角度で見あげてる踵の薄い靴を選んで
89 鱗
擦れあう鱗痛くて、わたしたち、するときいつも息を殺した
90 尾
不意打ちで親しいひとの尾をつかむ遊びのあとはいつもさみしい
91 静脈
静脈と静脈触れて風のなか狂わずにいる春の日がある
92 動脈
踏みわける草、廃タイヤ、眩しくて頸動脈のふるえをさがす
93 蛋白
蛋白質気味のからだを避けながら列車の揺れに逆らう朝は
94 腺
腺病質な子供のように相似形並べ互いをゆるしあう日は
95 垢
それさえも手垢まみれであなたって人に心底萎える月曜
96 液
液という液ざわめいて春の夜のからだ恋するからだとなりぬ
97 脂
オキシフル吸わせた脱脂綿なども、グラウンドから聞こえる声も
98 腱
しばし春の逃避行にて六畳に腱鞘炎の鼠と暮らす
99 分泌
もはや愛など分泌せずにいてほしく、つつがなく玉葱を刻む刃
100 体
離れずに体位変えれば魚めいた記憶の果てにふるえるひかり
